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執筆者の写真これぽーと

三菱一号館美術館:「Café 1894」(名なしのコラムニスト)

 大学生の時、港区のホテルでアルバイトをしていた。沿岸部に位置していたそのホテルは、宿泊機能だけでなくブライダル機能も備えており、私はその宴会場で式後のディナー配膳を行なっていた。出勤するとテーブルのセットを行い、グラスを磨き、カトラリーを配置し、フランス料理のフルコースを一品ずつ配膳した。


 料理はウォーマーに詰め込まれ、厨房から宴会場のバックヤードに運ばれ、宴会場のバックヤードから宴会場に運ばれた。配膳のリーダーがお客様が料理を食べる様子を丁寧に確認し、次の料理を提供するタイミングを見計らう。バックヤードにはコックが待機しており、配膳のタイミングに合わせて、提供される料理に最後の仕上げを施した。それは肉料理にソースをかけることであったり、ウォーマーから取り出される際に傾いた野菜の位置の調整であったり、よろしくお願いしますというコックからの呼びかけであったりした。


 宴会場には独特の狂騒があった。新郎新婦のケーキ入刀と共に飛び交うシャンパンの音、派手な音楽と共に始まるオードブル、祝福のシャッター音、労いと祝いの言葉が飛び交い、新郎新婦の出会いの映像が流れ、テーブルを移動する新郎新婦がキャンドルを照らしていく。高揚感と共に新婦の両親が手紙を読み、会場の啜り泣きと共に、スポットライトが絞られ会は幕を閉じていく。


 食べ物は、ライトブルーのゴミ箱に放り投げられた。200L以上あったかもしれない。進行を止めないように、多少残っていても下げるよう伝えるお客様がいた。フルコースを食べきれないお客様、会話に花を咲かせ食事に手が回らないお客様、様々な事情で料理は下げられ、バックヤードでは皿に乗った食べ物を、カトラリーの先でゴミ箱に払った。ゴミ箱の中身は料理が運び出されるごとに増えていき、宴会が終わる頃には殆ど満杯になっていた。


 その配膳リーダーは、業務終了した大学生のアルバイトたちを手招きした。ウォーマーに残っていたのは、欠席したお客様に出すはずだった肉料理だった。あるいは、取り皿にひっそりと分けられた、ビュッフェの残りだった。宴会も片付けも終わり、閑散としたバックヤードは寂しく、剥き出しの壁や床がはぐれた料理を静観していた。私たちは割り箸を静かに割ると、黒服の支配人に見つからないように隠れながら、ゴミ箱に運ばれなかった料理を急いで食べた。


 Café 1894で提供される食事は、そういういったホテルの味がする。非日常と共に価格高く提供される料理と、その味。提供される高度なサービス。信頼のおけるクオリティ。それは私にとっては、筆舌尽くしがたい味だった。

 

・食べた料理:Café 1894 ガーデンプレート(¥1580+税)


 グラタン・サラダ・サンドイッチがバランスよく載せられた白いお皿の品の良さに、思わずスマートフォンを取り出してしまう。銀行営業所を復元した上質な建築空間を楽しみ、すらりと制服に身を包むウエイトレスのサービスを受けながら食べるランチは、美術館帰りの非日常気分を冷めさせない。

 ガーデンと言いつつ鎮座するエビの上には花びらが散らされており、ソースと絡めて食べると絶妙な感触で舌を楽しませてくれた。タネを多く残したジャムとスコーンが印象に残るプレート。

 食後にはノンカフェインのお茶も用意されている。

 

(みどころ)

・かつて同場所にあった銀行営業所を復元した建物がみどころ。雑誌やテレビ等の撮影にも利用されている。


(ひとこと)

・店名の「1894」は三菱一号館の竣工年。

・展覧会タイアップメニューあり。

・最寄り駅は二重橋前駅だが、東京駅で降車し、丸の内仲通りを散歩しながら向かうのが気持ちよい。美しいケヤキ並木と共にウインドウショッピングが楽しめる。

・価格帯は1700~2200円。ドリンクでプラス800円。(めやす)

 

<基本情報>

Café 1894(三菱一号館併設)

住所:東京都千代田区丸の内2-6-2 三菱一号館美術館 1F

営業時間:11:00~22:00(L.O.21:00)

定休日:1月1日、不定休

アクセス:二重橋前駅、有楽町駅、東京駅

カフェレストランのみの利用:可

ランチ・ディナーの予約可。

 

・執筆者

名なしのコラムニスト

東京出身。


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