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執筆者の写真これぽーと

これぽーと的2023年よかった展覧会

これぽーとを2020年夏に始めて今年で3年以上が経ちました。いつもお読みいただきありがとうございます。記事本数も120本を超えました。これまでたくさんの方に書いていただいた全国の美術館の常設展レビューがここには詰まっています。

今回は年末ですので、昨年に引き続きこれぽーと参加者(有志)に2023年で特によかった展覧会ベストを考えていただきました。執筆者は大澤夏美、塚本健太、Naomi、伊澤文彦、みなみむさしさんの5名です。

2024年も読み手の方も書き手の方もよろしくお願いします。(南島)

 

大澤夏美

欧米列強が取り組んできた万博では、仏教はオリエンタリズムの象徴。それが大阪万博では、仏教当事者たちがどう自身の宗教を描いてきたか。学びはいつも自分に新しい視点を残してくれますね…面白かった…!

ミュージアムグッズの観点からも非常に興味深い展覧会でした。万博に売店がどのように出展されていたか、高島屋の貿易の歩みと万博がどうシンクロしグッズ開発をしたのか。これはミュージアムグッズ史の研究をやりたくなります。

誰か歴史学に強い方、一緒にやりません?


こんなに面白い展示が無料でいいの?と衝撃でした。

上述の万博もそうですし、博物館の歴史は政治の思惑にまみれたものです。それは動物園も然り。太平洋戦争下の動物たちの扱いもそうですが、動物園は社会や政治と切り離された独立した存在ではないよなと。そういう学びの要素も踏まえつつ、この展示では来館者の思い出の舞台としての動物園、という視点もあって大変興味深いです。


展示室の使い方が最強!国立新美術館の企画展示室1Eは柱も仕切りもない広い部屋で、LEDを使った《未知との遭遇》が中央で煌めく。展示室全体がインスタレーションのようでした。《外星人のためのプロジェクトNo. 10:万里の長城を1万メートル延長するプロジェクト》の記録映像も見られて嬉しい。


塚本健太

出版記念展 対話する布(岩立フォークテキスタイルミュージアム)

館長である、岩立氏が長年にわたって収集と研究、そして現地の人々と交流を続けながら活動を行ってきた、岩立フォークテキスタイルミュージアムの活動をまとめた展示でした。

特に複数枚展示されていたカンタは、作り手の個性や思いがとても強く伝わってくるもので、生活の中に息づくテキスタイルの姿を考えるきっかけになりました。


都市論において、ショッピングモールは旧来のコミュニティを壊す悪者として捉えられてきました(とくに近年注目されている『サード・プレイス』では、モールは批判対象の矢面に立ちます)。ただ、ショッピングモールが生活に根付く中で様々な表象文化からその意義を探る展示でした。

Naomi

たまたま館内でフライヤーを手にして そのまま観に行きました。コレクション展の一角を使った展示でしたが、非常に記憶に残りました。昨今、人々の暮らしのそばにあり続けてきた「糸」「布」にまつわる作家・作品への関心が、なんとなく高まりつつあるような気がしていますが、皆さまいかがでしょうか。私自身が子どもの頃から手芸が身近で、専門的に技術を学んでもいたので、目につくだけかもしれませんが。塚本さんが紹介された岩立フォークテキスタイルミュージアムにも行ってみたかったです。(「FUJI TEXTILE WEEK」も観に行ってきましたし、いまBunkamuraギャラリーでも布や糸を扱う現代作家のグループ展が開催されてます。)

 ちなみに来年、京都国立近代美術館では「小林正和とその時代―ファイバーアート、その向こうへ」を開催予定です。


野又 穫 Continuum 想像の語彙(東京オペラシティ アートギャラリー)

オペラシティのあの天井高の展示室内で大型の野又さんの作品群に囲まれて、思考が現実から切り離されたような感覚になりました。時代も場所もわからない野又さんの静かな作品世界に浸りきり、なんだか癒されたような、とても心地よい鑑賞体験となったのは久しぶりでした。


●特別展示 東京エフェメラ(インターメディアテク)

戦後日本独自の印刷文化の底流を支えてきた「エフェメラ」と呼ばれる一時印刷物のコレクション展です。戦中と戦後すぐの都内の地図や、都市計画書、行政報告書、東京オリンピックに際してのデザインマニュアル、各種報道、宣伝広告、ポスター、チラシ、国外向けパンフレット、観光ガイドや「うえの」などのフリーペーパー(タウン誌)などなど、図書館やミュージアムではなかなかアーカイブされないものが並んでいました。

歴史的な史料として大切に残されていくもの、ではないところに垣間見える、雑多なスナップ写真のようなリアルな東京の姿や、普通の市民の生活史みたいなものが、とても面白かったです。

思えば展覧会のフライヤーや出品リスト、ギャラリーで日々つくられ配布される作家のDMなども、「エフェメラ」の一つかもしれません。私はそれらが本当に捨てられず、山のように保管しているのですが、これもいつか誰かの役に立つかも、と思って大掃除できずにいます。

伊澤文彦

風景論以後(東京都写真美術館)

近年稀に見るクリティカルなテーマ展であると感じる。「風景」という概念が近代化の過程において大きな役割を果たしてきたことは言うまでもない。そして、近代化の過程で生じた、一種のユートピアとしての風景のイメージは、社会的構造や美的基盤の在り方を変え、現在の資本社会における、一種の均質化された風景を作り上げる要因になっている。歴史的社会的文脈から、資料と作品をふまえて検証していく際の丁寧な手つきにはキュレーターのこだわりを感じ、とても好感を持った。


“みかた”の多い美術館(滋賀県立美術館)

昨今、「多様性」や「ウェルビーイング」といった言葉が巷に溢れているが、この展覧会を見てから言って欲しいというくらい優れた展示。鑑賞方法を様々な人の立場から再考し、キャプションの作り方やアイレベルにいたるまで、様々な鑑賞方法の体験の中から自由な公共性を獲得できる可能性を持った展覧会だと感じた。


実験工房の造形(千葉市美術館)

近年評価が進んでいる「実験工房」の造形部門に所属した作家の展覧会である。

出品作品の多くはコレクションによるものだが、本展覧会で重要なのはメキシコの「シケイロス実験工房」が「実験工房」のルーツになっているのではないかという主張をキュレーターが行っている点である。1950年代のメキシコにおける多様なメディア使用の重要性を名付け親の瀧口修造が重要視していたことは状況証拠により確からしいことがわかっている。会場構成も北代省三のモビールを中心に据えたものであり、「実験工房」ならではのダイナミズムが象徴的に表現されている。


みなみむさし

コロナ禍が落ち着いてブロックバスター展再興の兆しも見え始め、自分自身でも実に4年ぶりの東京行きを実現できた中で、開催自館の収蔵作品が少なからず活かされた展覧会にもより良き内容を感じさせた2023年でした。

居住地的にどうしても東北以北での開催分が鑑賞の中心となってしまいますが、以下の3展を選出しました。


道南美術のクロニクル 来し方行く末(北海道立函館美術館)

こちらの自館収蔵作品中心の展覧会で時折良好に発揮される「出品数の制約」を感じさせないキュレーションがこれまで以上に巧みに嵌まったように思われた、地域色豊かな特別展でした。北條玉洞とその門下の画家たちの作品・団体組織・戦争体験を含む生涯が紹介された前半〜中盤と、アンフォルメル影響の強い画家が目立った終盤が特に印象的。


約2年に及ぶ改修休館を前に、日本の公立美術館の中でも随一と思われる質や数量を誇る自館収蔵作品、中でも洲之内徹の旧蔵分を含む日本近現代洋画の名作良作を幾つも堪能できた一大コレクション展示でした。幼稚園以前から絵本で親しんできた山脇百合子さんの追悼企画も充実。「見える収蔵庫」も設けられる再開館後の活動にも期待したいです。


豊嶋康子 発生法──天地左右の裏表(東京都現代美術館)

2016年冬から春のMOTコレクション展で大きな感銘を受けた《口座開設》は勿論、30年以上にわたり実に多種多彩な手法やメディウムを用いて独自表現を成し遂げてきた姿と出品数量に圧倒されながらも充足感を得られた大規模個展でした。年明けから会期終了以降も、鑑賞者それぞれで様々な思索が続いていきそう。

 

執筆者プロフィール ・伊澤文彦

美術館学芸員。 主に実験工房など前衛芸術集団の研究を行う。 演劇や音楽などの領域横断的なクロスジャンルな作品を分析対象とし、ジャンルが作品をどのように規定するかを考え続けている。


・大澤夏美

北海道の大学でメディアデザインについて学ぶものの、卒業研究で博物館学に興味を持ち、元来の雑貨好きも講じて卒論はミュージアムグッズをテーマにしました。大学院でも博物館経営論の観点からミュージアムグッズを研究。現在も全国各地のミュージアムグッズを追い求めています。著書に『ミュージアムグッズのチカラ』国書刊行会、『ときめきのミュージアムグッズ』玄光社。

・塚本健太

一橋大学大学院 社会学研究科に在籍。都市計画・まちづくりを専門とする。2000年生まれ。学芸員資格を活かし、寒川町鉄道保存会を中心に全国の鉄道遺産の保存・活用に取り組んでいる。  


・Naomi

静岡県出身。スターバックス、採用PR・企業広報、広告、モード系ファッション誌のWebディレクターなどを経て、アート&デザインライターに。好きなものや興味関心の守備範囲は、古代文明からエモテクのロボットまでボーダレス。大学の芸術学科と学芸員課程で学び直し中


・みなみむさし

函館市出身。小学生時代は近所の美術館にほぼ毎展覧会足を運ぶものの、自身の制作技能は全く向上せず。某私大卒業後、職場近隣でのミュージアム開館ラッシュでアート熱が再燃し、日本近現代美術や建築展中心に鑑賞。函館にUターン後は北海道南や青森県内中心に少ないながらも機会継続、現在に至る。




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