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これぽーと的2022年よかった展覧会

これぽーとを2020年夏に始めて今年で2年以上が経ちました。いつもお読みいただきありがとうございます。記事本数も、もうすぐ120本になります。これまでたくさんの方に書いていただいた全国の美術館の常設展レビューがここには詰まっています。今回は年末ですので、これぽーと参加者(有志)に2022年で特によかった展覧会ベスト3を考えていただきました。これぽーとでとりあげた展示あり、博物館もあり、みなさんが日ごろから様々な美術館・博物館に足を運ばれていることが分かり、驚きました。来年でこれぽーとは3年目に入りますが、引き続き、読み手の方も書き手の方もよろしくお願いします。(南島)

 

▶塚本健太

谷村美術館(糸魚川)

糸魚川の建設会社、谷村建設の社長・谷村繁雄が建築家の村野藤吾に依頼してできた建物は経年によって、より遺跡のような出立ち。内部は、地中美術館のように一つ一つの作品と空間がセットで対峙できるようになっていました。


日常の風景を「ロトスコープ」という技術で映像からアニメへトレースして作品を制作してきた。いわき市の蒲鉾工場が震災から復活したときに作った《ダテマキ》は圧巻のみごたえ。


 東京都現代美術館 「クリスチャン・マークレー」展

聴覚と視覚の融合をテーマに長年活動してきたマークレーの回顧展。どの作品もインパクト絶大でとても面白い展覧会でした


▶大澤夏美

企画展でも、コレクションや研究を生かした展示で下記が突出して面白かったです。


目黒区美術館の教材や画材、木製玩具コレクションを存分に生かした展示。「玩具でいっぱいのおもちゃ箱、便利な小物や道具を入れた道具箱には、その持ち主の個性が現れます。美術館を、大切な所蔵品をいれる箱としてみると、収められたコレクションから、館の特色が見えてきます。」という説明がもうなるほどしかない!


千葉市美術館「とある美術館の夏休み

美術館における「夏休み」を「美術館の日常と非日常のあわい」と捉え、千葉市美のコレクションや作家の新作で構成した意欲的な展示。企画がとにかく独創的で今年のナンバーワンです。特に「美術館をときほぐす」という章が好きで、学芸員は美術館の歴史の中でどのような存在なのか、監視員は展示室で何を見つめているのかを問い直すタフな章でした。


町田市立国際版画美術館「彫刻刀が刻む戦後日本ー2つの民衆版画運動

青森の教育版画がすごく好きなのですが、民衆版画運動として捉えたことがなかったので、版画をめぐる時代のダイナミズムを体感することができた素晴らしい展示でした。版画を通じて日本の産業の発展とそれに伴う労働の歴史、教育の歴史を学べました。作品点数も多く、大型の版画作品も多数展示されていて、他の鑑賞者の皆さんもすごく夢中になっていました。美術館の版画研究が大輪の花を咲かせた展示だったように思います。


▶Naomi

3つを選ぶの、難しかったです・・! 松涛美術館の建物公開、写真美術館の「プリピクテ 東京展「FIRE / 火」」、資生堂ギャラリーの「万物資生│中村裕太は、資生堂と を調合する」、そしてTOKYOART BOOK FAIRのリソグラフ企画も良かったです。皆さまが何を挙げるのか、楽しみにしています!


●国立科学博物館「WHO ARE WE 観察と発見の生物学

科博の膨大な収蔵品を巡回展示できるように、という目的を、デザインの力で、見事なまでに、観て楽しい展覧会にした企画展でした。

ちなみに、企画を手がけた三澤遥さんは、2018年のTAKEO PAPER SHOWで”動く紙”の展示をしてらしたのに驚いて以来、ほぼ同世代ということもあって大好きなデザイナーの方です。国立新美術館で開催していた『DESIGN MUSEUM JAPAN展』では南方熊楠のことをリサーチされていました。


●静岡県立美術館 「大展示室展

長期休館・修繕工事を経た後、作品を展示できるようになるまでの期間を活用して、作品の展示方法や、展示ケースそのもの、照明の違い、梱包資材や稼働壁の裏側など、美術館の展示室そのものを紹介した企画展です。

コロナ禍で、作品を展示していない展示室そのものを公開する、という取り組みは複数の館で観られましたが、この企画展は、そこから一歩踏み込んだ良い企画であり、学芸員課程を学んでいる人間としても、これが観たかった!と思いました。


さまざまな”場”と”人”とを、とても軽やかにつなぎ、広く世の中へ届け続けてきた小池さん、その歩みを振り返る、とても印象的な企画展でした。御年86歳!ですが、そんなことを忘れるくらい、今も東京ビエンナーレの共同代表をされるなどパワフルに活動されてます。まさに今、語り下ろしの本「はじまりの種をみつける」を読み返しているところです。


▶松村大地

「よかった展覧会」としては大規模展3つになりましたが,「よかった美術館」としては静岡市立芹沢銈介美術館が白井晟一建築と併せて印象的でした。


●「あいち2022」(愛知芸術文化センター・有松地区・一宮地区・常滑地区)

河原温から始まり各地の伝統産業と結びつける構成からは、キュレーションの影を色濃く感じずにはいられない芸術祭だったと思います。あれだけ2019が話題になったのだから、あいち2022についてももう少し各所で批評されるべきではないかとも思います。


●東京国立近代美術館「ゲルハルト・リヒター

存命中でありながら,最後の巨匠などとも評されるリヒターの大回顧展。AIによる画像生成問題がネット上で議論を巻き起こしていた2022年夏に、絵画と写真の往還をはじめとする代表作品群から近作までの展覧会は見応えや考え応えがありました。


40年越しに開館した大美術館。国内外の近現代美術だけでなく、近現代デザインの作品もかなり充実していたことが印象的でした。国内の美術館としては今年最大級の「コレクション展」だったのではないでしょうか。

 

執筆者プロフィール

・塚本健太

東京都立大学 都市環境学部 都市政策科学科に在籍。都市計画・まちづくりを専門とする。2000年生まれ。学芸員資格課程を受講中。 伝統工芸学生アンバサダーとらくらとしても活動中。


・大澤夏美

北海道の大学でメディアデザインについて学ぶものの、卒業研究で博物館学に興味を持ち、元来の雑貨好きも講じて卒論はミュージアムグッズをテーマにしました。大学院でも博物館経営論の観点からミュージアムグッズを研究。現在も全国各地のミュージアムグッズを追い求めています。著書に『ミュージアムグッズのチカラ』国書刊行会、『ときめきのミュージアムグッズ』玄光社。


・Naomi

静岡県出身。スターバックス、採用PR・企業広報、広告、モード系ファッション誌のWebディレクターなどを経て、アート&デザインライターに。好きなものや興味関心の守備範囲は、古代文明からエモテクのロボットまでボーダレス。大学の芸術学科と学芸員課程で学び直し中


・松村大地

切り絵作家/美術作家。2001年生まれ、大阪在住。作品制作・展示活動に加えて、切り絵の調査・研究や神戸新長田の下町芸術祭などでも活動している。現在、京都工芸繊維大学に在籍中。

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